「楽器塗装法」 としてのオイルフィニッシュ

一般の木材製品へのオイルフィニッシュは可能な限りオイルを浸透させるのが良いと されています。楽器の場合には音に悪影響のない塗装をする必要があります。楽器へのオイルフィニッシュはオイルの浸透度合いを極力抑えることが重要となります。一般の木材製品であれば、浸透を促進させることでより強固な塗装になる、という見解が一般的です。

楽器の場合は亜麻仁油の過度な浸透により乾燥が遅れ、音の透明感、明瞭度が低下します。可能な限り乾燥時間が短いオイルを選択し、少量を塗ったらすぐに拭き取り、オイルの浸透を表面で抑えることがポイントと言えます。


亜麻仁油は表面に塗膜が出来ないので、塗膜のできるラッカーやシェラックなどと比較すると当然はがれるものがありません。塗膜を作る塗装の場合は、塗膜の厚さや仕上がり具合、さらに打痕や経年変化等によっては、はがれやクラックが生ずる場合があります。


亜麻仁油は塗膜がない分、木材の風合いがストレートに出ます。ナチュラルでトラディショナルな風合いを好む人には向いた塗装法と言えます。又、オイルが浸透する関係上、木材の深みが出て塗膜の出来る 塗装にはない自然な仕上がりになります。


亜麻仁油での塗布回数は平均で10回くらいから深みと艶が増します。オイルフィニッシュの特性を最大限に出す為には、最低10回は重ね塗りをするのが望ましいと思われます。但し、木材の風合いそのものを重視したい場合は、塗る回数を減らした方がより自然な仕上がりになります。


塗膜がない分「音」の振動が良好になります。(ラッカー仕上げのギターを再塗装してオイル仕上げをしたところ、音の抜けが向上しました) 塗膜が出来るということは、音が多少なりとも制限されるとも言えますがオイルフィニッシュでは制限が減少しますので、音質面では向上が期待 されます。


植物性天然油を使用しているので、シェラックと同様に楽器や人体に悪影響はほとんどありません。毒性もほとんどないので、安全・安心な塗装法と言えます。


塗りの技術はラッカーやシェラック等と比較すると簡単です。但し木材へのオイルの浸透を最少限に抑えるため、塗布後はす早くふき取る 必要があります。ベタベタに塗ったまま放置すると、必要以上にオイルが木材に浸透し、オイルが完全に乾くまでにかなりの時間を要し、音にも悪影響が出ます。


塗り重ねが基本で、仕上がり具合をゆっくりと経過・観察できます。シェラックによるタンポ塗りと同様、一回一回塗る毎に少しづづ仕上がりが変わってゆきます。1日に朝と晩の2回塗るのを基本にしている製作家もいらっしゃいます。


ラッカーのような危険物対策が不要で安全・安心。特殊な設備も不要です。一部シンナーを使う場合もありますが、ラッカーの場合の吹き付けよりは僅かな影響で済みます。スプレーガンによる吹き付けは部屋中がラッカーの臭いで充満します。


マホガニー、ウオールナット、コア、ローズウッドなどの色の濃い又は赤系の広葉樹には、木目が強調され外観に高級感が出ます。オイルの性質により、広葉樹に塗装した場合は木目が深まり強調される傾向があります。この特徴はラッカーやシェラックよりも顕著と思われます。


プルースなどの針葉樹・白木系の場合は「黄変」があり、色合いの好みが分かれます。木目の「白さ」を重視したい方は、白木系の木材にオイルを使用するのは不適かもしれません。スプルース等にオイルを塗ると黄色が目立ってきて多少油っぽい感じになります。トラディショナルな風合いを好む人には良いかもしれません。


塗膜がない分、「外部の保護」という点からはラッカーやシェラックよりも弱くなります。「保護」を重視したい場合はオイルフィニッニュよりラッカーやシェラックを使った方が良いかもしれません。但し、塗膜のある塗装でもキズが塗面に付くことは避けられません。塗膜にキズが付くか、木材にキズが付くかの違いをどう考えるかということになります。結局はどちらであってもキズ等が付くことには変わりないと考えれば、大きな欠点とは言えないかもしれません。


亜麻仁油が深く木材に浸透し過ぎると乾燥が困難になる場合があり、音質にも影響するので注意が必要です。塗ったままべとべと状態での放置は絶対に避け、す早くふき取ります。浸透し過ぎた亜麻仁油の乾燥はとても遅く、完全に乾くまでは、サウンドはシャープさ、クリアーさを失います。モコモコして 曇った音になりますので注意が必要です。


広葉樹で導管がある場合、目止めをするかしないかは好みの問題となります。目止めをすると表面に油脂膜が付いたような仕上がりになり、油特有のテカテカ感が強調されてきます。目止めをしなければ、オイルフィニッシュ本来の木材内部に向かって深みが増し、テカテカ感は抑えられます。どちらもそれなりの趣きがありますので、一度試されるのが良いと思います。


生地調整は妥協を許さずにきっちりやることが重要です。塗膜がないのでその分表面のごまかしが利きません。ギターを組み立てる前にそれぞれの板を スクレーパーで研磨し、組み立ててからは100番くらいから番手を1つづつ上げて280番までじっくりとサンディングし、さらに無水アルコール等で表面を滑らかにします。塗装中も必要に応じてサンディングし、ケバを抑えるためにスチールウール等で軽くサンディングします。


音については亜麻仁油が浸透し過ぎるとシャープさが欠け、曇ったサウンドになります。オイルは少量づつ使用し、塗ったらすぐに拭き取ることが重要です。楽器としてのオイルフィニッシュはオイルの浸透を最小限に止めることが最大のポイントと言えます。乾燥後は特に低音が強調され深い低音が出るようになります。これはこの塗装の音響的特長と言えます。